あったのです。自国民の救済に科学の快楽を利用するのは、非常に危険な事でした。それは、西洋人が侵略の目的を以《もっ》て他国の民衆を手なずけるために用いる手段でした。自国民の教化には、まず民衆の精神の啓発が第一です。肉体の病気をなおしてやって、新生の希望を持たせ、それから精神の教化などとそんな廻りくどい権謀《けんぼう》みたいな遠略は一さい不要なのです。人事《ひとごと》ではない。僕自身だって、いま、日本の忠義の一元論のような、明確|直截《ちょくせつ》の哲学が体得できたら、それでもう救われるのですからね。アイスクリイムをなめたって、キャラメルをしゃぶったって、活動写真を見たって、ほんフ一時、気持がまぎれるだけのものじゃありませんか。僕は、日本のあの一元哲学には、身振りが無くて、そうしていつでも黙って当然のことのように実行されているので、安心できるのです。自分の深く信仰している事に就いては、あまり熱狂して騒がぬほうがいいのではないかしら。東京の友人たちは、口をひらけば三民主義、三民主義の連発で、まるでそれが、人間と非人間を区別する合言葉のようになってしまって、あれでは、真の三民主義の信奉者は、い
前へ 次へ
全198ページ中166ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング