も無理に東京言葉を使おうとしたら、使えないわけはないのだが、どうせ田舎出だという事を知られているのに、きざにいい言葉を使ってみせるのも、気恥かしいのである。これは田舎者だけにわかる心理で、田舎言葉を丸出しにしても笑われるし、また努力して標準語を使っても、さらに大いに笑われるような気がして、結局、むっつりの寡黙居士《かもくこじ》になるより他は無いのである。私がその頃、他の新入生と疎遠だったのは、そのような言葉の事情にも依《よ》るが、また一つには、私にもやはり医専の生徒であるという事の誇りがあって、烏《からす》もただ一羽枯枝にとまっているとその姿もまんざらで無く、漆黒《しっこく》の翼《つばさ》も輝いて見事に見えるけれども、数十羽かたまって騒「でいると、ゴミのようにつまらなく見えるのと同様に、医専の生徒も、むれをなして街を大声で笑いながら歩いていると角帽の権威も何もあったものでなく、まことに愚かしく不潔に見えるので、私はあくまでも高級学徒としての誇りを堅持したい心から、彼等を避けていたというような訳もあったのである、と言えば、ていさいもいいが、もう一つ白状すると、私はその入学当初、ただ矢鱈に
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