まだ何も植ゑてゐませんから、その半分もお貸し致しませう。ご自由にお使ひ下さい、なほ断つて置きますが、私は、菊を作つて売らう等といふ下心のある人たちとは、おつき合ひ致しかねますから、けふからは、他人と思つていただきます。」
「承知いたしました。」三郎は、大いに閉口の様子である。「お言葉に甘えて、それでは畑も半分だけお借りしませう。なほ、あの納屋の裏に、菊の屑の苗が、たくさん捨てられて在りますけれど、あれも頂戴いたします。」
「そんなつまらぬ事を、いちいちおつしやらなくてもよろしい。」
不和のままで、わかれた。その翌る日、才之助は、さつさと畑を二つにわけて、その境界に高い生垣を作り、お互ひに見えないやうにしてしまつた。両家は、絶交したのである、
やがて、秋たけなはの頃、才之助の畑の菊も、すべて美事な花を開いたが、どうも、お隣りの畑のはうが気になつて、或る日、そつと覗いてみると、驚いた。いままで見た事もないやうな大きな花が畑一めんに、咲き揃つてゐる。納屋も小綺麗に修理されてゐて、さも居心地よささうなしやれた構への家になつてゐる。才之助は、心中おだやかでなかつた。菊の花は、あきらかに才之助
前へ
次へ
全20ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング