ょいだよ、僕は。
 どうも田舎はいけない。躓《つまず》いてばかりいる。暗い気持である。よっぽど、石塚のおじいさんのところへ行って、あの小さい兄妹《きょうだい》にお詫《わ》びをして来ようと思ったけれど、やはり行けなかった。大袈裟《おおげさ》のような気がして、恥ずかしく、どうしても行けなかった。
 あすは東京へ帰ろうと思う。兄さんに相談したら、兄さんも、そろそろ帰りたいと思っていたところだ、と言って賛成してくれた。
 夕方、風呂からあがって鏡を見たら、鼻頭が真赤に日焼けして、漫画のようであった。瞼《まぶた》が二重になったり三重になったり一重になったり、パチクリする度毎《たびごと》に変る。眼が落ちくぼんだのかも知れない。運動しすぎて、却《かえ》って痩《や》せたのだ。ひどく損をしたような気がした。早く東京へ帰りたい。僕は、やっぱり都会の子だ。


 四月八日。土曜日。
 九十九里は晴れ、東京は雨。家へ着いたのは、午後七時半ごろだった。姉さんが来ていた。へんな気がした。「ついさっき、ちょっと遊びに来たの。」と姉さんは澄まして言っていたが、後で木島さんは、うっかり、おとといの晩から来ているのだとい
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