んまで、僕と同じ様に、足が地につかない感じだなんて言って賛成するのは、おかしい。兄さんも僕と同じ様に、うれしく、ぽっとしてしまったのかしら。ばかな兄さんだなあ。これくらいの事で、そんなに興奮して。
いまに、もっともっと喜ばせてあげよう。きょうは一日、夢を見ているような気持だったが、夢だったら、さめないでおくれ。波の音が耳について、なかなか眠れない。でも、もうこれで、将来の途《みち》が、一すじ、はっきりついた感じだ。神さまにお礼を言おう。
四月七日。金曜日。
晴れ。東から弱い風がそよそよ吹いている。もう、東京へ帰りたくなった。九十九里も、少しあきて来た。朝ごはんを食べて、それからすぐに二人で砂浜へ出てゴルフを始めたが、最初の時ほど面白《おもしろ》くなかった。興が乗らない。ゴルフの最中に、別荘の隣りに住んでいる生田繁夫《いくたしげお》という十八になる中学生が、「こんにちは」と言ってやって来て、こちらが、「こんにちは」と挨拶《あいさつ》を返したらすぐに、「この代数の問題を解いて下さい。」と言ってノオトブックを僕の鼻先に突きつけた。ずいぶん失敬だと思った。この人とは、小さい時分、よく
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