て、それがボールだ。それを野球のバットでゴルフみたいなフオムで打って、畑の向うの約百|米《メートル》ばかり離れた松の木の下の穴に入れるのである。途中の畑が、たいへんな難関なのである。たのしかった。僕たちは大声で笑い合った。カアン! とインク瓶の球をふっ飛ばすと、実に気持がよい。キン婆さんが、お餅《もち》と蜜柑《みかん》を持って来てくれる。大いに感謝してむしゃむしゃ喰《た》べながら、またゴルフをつづける。僕は、たった六回で穴にいれた。きょうのレコードだった。浜の子供が四人、いつのまにやら、僕たちについて歩いている。
「おらは、おぼえただ。」
「おらも、おぼえただ。あすこの穴にぶち込めばええだ。」などと、こそこそ話合っている。仲間にはいりたい様子である。
 兄さんが、「やってごらんなさい。」と言ってバットを差し出したら、果して、嬉々《きき》として、「おらは、おぼえただ。」を連発しながら、やたらにバットを振りまわした。とても可愛《かわい》い。この子供たちは毎日、どんな事をして遊んでいるのだろうかと思ったら、ホロリとした。ああ、誰もかれも、みんな同じように幸福になりたい。子供たちは、それこそ、
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