たものがあるからでしょうよ。僕は、たいへん、ずるくなった。自分の思っている事を、むやみに他人に知らせるのが、いやになった。僕が今、どんな思想を抱いているか、あんまり他人に知られたくないのです。ただ一言だけ言える。「僕の将来の目標が、いつのまにやら、きまっていました。」あとは言わない。あすも試験があるのです。勉強、勉強。



 一月四日。水曜日。
 晴れ。元旦《がんたん》、二日、三日、四日は遊んで暮してしまった。昼も夜も、ことごとく遊びである。遊んでいたって、何もかも忘れて遊んでいるわけではなし、ああもう厭《いや》だな、面白《おもしろ》くねえや、などと思いながらも、つい引きずられて遊んでしまうのであるが、遊んだあとの淋《さび》しさと来たら、これはまた格別である。極度の淋しさである。勉強しようと、つくづく思う。この一箇月間、自分にはなんの進歩も無かったような気がする。たまらなく、あせった気持である。本当に、ことしこそ、むらのない勉強をしてみたい。去年は毎日毎日、ガタピシして、こわれかかった自動車に乗っているような落ちつかぬ気持で暮して来たが、ことしになって、何だか、楽しい希望も生れて来た
前へ 次へ
全232ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング