hing is doing ill. 何事をも為《な》さざるは罪をなしつつあるなり。僕は慶ちゃんに嫉妬《しっと》していたのかも知れぬ。下品な事だ。よく考えよう。


 五月四日。火曜日。
 晴れ。きょう蹴球部《しゅうきゅうぶ》の新入部員歓迎会が学校のホールで催された。ちょっと覗《のぞ》いてみて、すぐ帰った。ちかごろの僕の生活には、悲劇さえ無い。


 五月七日。金曜日。
 曇。夜は雨。あたたかい雨である。深夜、傘《かさ》をさして、こっそり寿司《すし》を食いに出る。ひどく酔っぱらった女給と、酔ってない女給と二人、寿司をもぐもぐ食っていた。酔っぱらった女給は、僕に対して失敬な事を言った。僕は、腹も立たなかった。苦笑しただけだ。


 五月十二日。水曜日。
 晴れ。きょう数学の時間に、たぬきが応用問題を一つ出した。時間は二十分。
「出来た人は?」
 誰も手を挙げない。僕は、出来たような気がしていたのだが、三週間まえの水曜日みたいな赤恥をかくのは厭《いや》だから、知らん振りをしていた。
「なんだ、誰も出来んのか。」たぬきは嘲笑《ちょうしょう》した。「芹川、やってごらん。」
 どうして僕に指名し
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