うだ。本当に、惜しい事だ。兄さんは、いつでも、バルザックやドストイェフスキイと較《くら》べて、自分の力量の足りない事を嘆いているが、はじめから、あの人たちに勝とうと思うのは慾《よく》が深すぎるのではあるまいか。「やっぱり、小説は、三十すぎなければ駄目だね。」などと言っていたけど、それでは、三十になる前に、小さい散文詩などを書いてみたらどうかしら。とにかく兄さんには、凄い才能があるのだから、いまに調子が出て来れば、世界的な傑作を必ず書く。兄さんの文章の美しさは、ちょっと日本にも類が無い。
今夜、風呂《ふろ》へはいって、鏡をみたら顔がひどくやつれているので、驚いた。僅《わず》か二、三日の間に、こんなに顔が変るものか。やっぱり、この二三日、よほどの心労だったのだろう。頬骨《ほおぼね》が出て、すっかり大人の顔である。ひどく醜い。どうにかしなければならぬ。僕は、もう役者なのだ。役者は、顔を大事にしなければいけないものだ。どうも、この顔は気にいらない。干《ほ》した猿みたいだ。これからは、毎朝、クリイムとかヘチマコロンとかを用いて、顔の手入をしなければならぬ。役者になったからって、急におめかしをす
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