している場合ではない。目前の努力が大事だ。つらいだろうなあ。二年|経《た》って、正団員になって、それからが本当の役者の修業なのだ。十年修業して、二十九歳。いろんな事が起るだろう。自分ひとりの演技よりも、どんな脚本を選ぶかという事こそ最も大きい問題になって来るだろう。とにかく努力だ。かならず偉い役者にならなければならぬ。大海へ丸木舟に乗ってこぎ出した形だ。でも、僕が今月から、もう、ちょっとしたお給金がもらえるというのは、くすぐったい事だ。チョッピリ、うれしい。最初のお給金で、兄さんへ万年筆を一本買ってあげようと思っている。兄さんは、明日、沼津のお母さんの実家へ避暑に行くと言っている。十日ばかり滞在の予定だそうだ。いつもなら、僕も当然、一緒に行くのだが、なにせ来週から、「つとめ」の身であるから、ままにならぬ。ことしの夏は、東京に居残って頑張るのだ。兄さんの「文学公論」の小説は、とうとう締切までに間に合わなかったようだ。半分ほど書き上げた時に、津田さんに見ていただいたところが、意外なほどいいお点をもらって激励されたとか、けれどもその後が、どうしても、うまく進行せず、とうとう放棄してしまったよ
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