でしたか?」
それからそれと、とてもこまかい所まで尋ねる。お母さんが病気だと言ったら、その病状まで熱心に尋ねる。ちかい親戚《しんせき》には、どんな人がいるのか、とか、兄さんの後見人とでもいうような人がいるのか、とか、家庭の状態に就いての質問が一ばん多かった。でも自然にすらすらと尋ねるので、こちらも気楽に答える事が出来て、不愉快ではなかった。最後に、
「春秋座の、どこが気にいりましたか?」
「べつに。」
「え?」試験官たちは、一斉《いっせい》にさっと緊張したようであった。主任のひとも、眉間《みけん》にありありと不快の表情を示して、「じゃ、なぜ春秋座へはいろうと思ったのですか?」
「僕は、なんにも知らないんです。立派な劇団だとは、ぼんやり思っていたのですけど。」
「ただ、まあ、ふらりと?」
「いいえ、僕は、役者にならなけれぁ、他に、行くところが無かったんです。それで、困って、或《あ》る人に相談したら、その人は、紙に、春秋座と書いてくれたんです。」
「紙に、ですか?」
「その人はなんだか変なのです。僕が相談に行った時は風邪気味だとかいって逢ってくれなかったのです。だから僕は玄関で、いい劇団
前へ
次へ
全232ページ中210ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング