そんな気持もするのである。
きょうは早朝から家中、たいへんな騒ぎであった。お母さんが、いよいよ九十九里の別荘に行って療養することになったのである。きょうは「大安《たいあん》」とかいって縁起のいい日なんだそうで、朝は少し曇っていたが、お母さんは、ぜひきょう行きたいと言い張るので、いよいよ出発。鈴岡さんと姉さんが、早朝から手伝いに来る。目黒のチョッピリ叔母さんも来る。チョッピリという形容詞は、つつしむことに叔母さんと約束したのだが、どうも口癖になっているので、うっかり出る。御近所のおじさん、朝日タクシイの若旦那《わかだんな》、それから主治医の香川さん。総動員で、出発のお支度。なにせ、お母さんは寝たっきりの病人なのだから手数がかかる。看護婦の杉野さんと女中の梅やが、お母さんについて行く事になって、留守は、兄さんと僕と、書生の木島さんと、それから鈴岡さんの遠縁のものだとかいう五十すぎのお婆《ばあ》さん。このお婆さんは、シュンという名で、ひょうきんな人だ。杉野さんも梅やも、お母さんについて行って当分、炊事などする人が家にいなくなるので臨時に、このお婆さんに来てもらう事にしたのである。これから家
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