はこのごろ、一個の生活人になって来たのだ。地を匍《は》う鳥になったのだ。天使の翼が、いつのまにやら無くなっていたのだ。じたばたしたって、はじまらぬ。これが、現実なのだ。ごまかし様《よう》がない。「人間の悲惨を知らずに、神をのみ知ることは、傲慢《ごうまん》を惹《ひ》き起す。」これは、たしか、パスカルの言葉だったと思うが、僕は今まで、自分の悲惨を知らなかった。ただ神の星だけを知っていた。あの星を、ほしいと思っていた。それでは、いつか必ず、幻滅の苦杯を嘗《な》めるわけだ。人間のみじめ。食べる事ばかり考えている。兄さんが、いつか、お金にもならない小説なんか、つまらぬ、と言っていたが、それは人間の率直な言葉で、それを一図《いちず》に、兄さんの堕落として非難しようとした僕は、間違っていたのかも知れない。
 人間なんて、どんないい事を言ったってだめだ。生活のしっぽが、ぶらさがっていますよ。「物質的な鎖と束縛とを甘受せよ。我は今、精神的な束縛からのみ汝《なんじ》を解き放つのである。」これだ、これだ。みじめな生活のしっぽを、ひきずりながら、それでも救いはある筈だ。理想に邁進する事が出来る筈だ。いつも明日
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