ら、たすかったのだ。来月の三日には、しっかりやるさ。」
けれども僕は絶望している。芸術の道にも、普通のサラリイマンの苦労と、ちっとも違わぬ俗な苦労も要るだろうという事は、まえから覚悟していたところで、それくらいの事には、へこたれはせぬけれど、僕がきょう斎藤氏邸からの帰り道、つくづく僕自身の無名、矮小《わいしょう》を思い知らされて、いやになったのだ。斎藤氏と僕、あまりにも違いすぎていたのだ。こんなに、雲と雑草ほどの距離があるとは、気がつかなかったのだ。やあ、と声を掛ければ、やあ、と答えてくれそうな気がしていたのだ。なんたる無邪気さであろう。きょうは全く、あの人と僕たちとは、人種がまるで、別なのではないかというような気がしたのである。努めて及ばぬ事やある、という言葉もあるけど、どんなに努めても及ばぬ事も、この世にはあるのではあるまいかと思って、うんざりしてしまったのだ。「日本一」の理想が、ふっ飛んじゃった。偉くなろうという努力が、ばからしいものに見えて来た。僕には、斎藤氏のように、あんな堂々たる牙城《がじょう》は、とても作れそうもないんだ。
夜は、兄さんに引っぱられて、ムーランルージュ
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