るべし。汝《なんじ》これを信ずるか。」
忘れていた。僕は信ずる事が薄かった。何もかも、おまかせして、今夜は寝よう。僕はこのごろお祈りをさえ怠っていた。
御意《みこころ》の天のごとく、地にも行われん事を。
四月三十日。日曜日。
晴れ。朝十時、兄さんに門口まで見送られて、出発した。握手したかったのだけれど、大袈裟《おおげさ》みたいだから、がまんした。一高を受ける時も、R大を受ける時も、こんなに緊張していなかった。R大の時など、その朝になって、はじめてはっと気附《きづ》いて、あわてて出発したくらいであった。
人生の首途《かどで》。けさは、本当にそんな気がした。途中、電車の中で、なんども涙ぐんだ。そうして昼ごろ、ぼんやり家へ帰って来た。なんだか、へとへとに疲れた。
芝の斎藤氏邸は、森閑としていた。平家《ひらや》の奥深そうな家であった。玄関のベルを、なんど押しても、森閑としている。猛犬でも出て来るんじゃないかと、びくびくしていたが、犬ころ一匹出て来る気配さえ無い。まごまごしていたら、庭の枝折戸《しおりど》から、
「ま! おどろいた。」と言って真赤な帯をしめた少女があらわれた。女中
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