津田さんに紹介状を書いていただきます。」兄さんは、すまして言う。
「芹川も、いつのまにやら図々《ずうずう》しくなってしまいやがった。この図々しさが、作品にも、少し出るといいんだがねえ。」
 兄さんは、急にしょげた。
「僕も十年計画で、やり直すつもりです。」
「一生だ。一生の修業だよ。このごろ作品を書いているかね?」
「はあ、どうもむずかしくて。」
「書いていないようだね。」津田さんは溜息《ためいき》をついた。「君は、日常生活のプライドにこだわりすぎていけない。」
 冗談を言い合っていても、作品の話になると、流石《さすが》にきびしい雰囲気《ふんいき》が四辺に感ぜられた。本当に佳《よ》い師弟だと思った。紹介状を書いていただいて、おいとまする時、津田さんが、玄関まで見送って来られて、
「四十になっても五十になっても、くるしさに増減は無いね。」とひとりごとのように呟《つぶや》いた言葉が、どきんと胸にこたえた。
 作家も、津田さんくらいになると、やっぱり違ったところがあると思った。
 本郷の街を歩きながら、兄さんは、
「どうも本郷は憂鬱《ゆううつ》だね。僕みたいに、帝大を中途でよした者には、この
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