《まじめ》に考え込んでいると思ったら、その事か。よし。あした、津田さんのところへ行って相談してみよう。どんな先生がいいのか、とにかく津田さんのところへ行って、聞いてみようよ。あした一緒に行こう。」兄さんは、きのうから、とても機嫌がよい。
 あすは天長節である。何か、僕の前途が祝福されているような気がした。津田さんというのは、兄さんの高等学校時代の独逸《ドイツ》語の先生で、いまは教職を辞して小説だけを書いて生活している。兄さんは、このひとに作品を見てもらっているのだ。
 夜はおそくまで、部屋の整頓《せいとん》。机の引出の中まで、きれいに片づけた。読み終った本と、これから読む本とを選《よ》りわけて、本棚を飾り直した。額《がく》の絵も、ピエタのかわりに、ダヴィンチの自画像をいれた。意志的に強いものが欲しかったからだ。鵝《が》ペンを捨てた。少女趣味を排除したかったのだ。ギタは、押入れにしまい込んだ。ずいぶん、サッパリした気持である。ことしの春は、一生涯、あざやかな思い出となって残るような気がする。


 四月二十九日。土曜日。
 日本晴れ。きょうは天長節である。兄さんも僕も、きょうは早く起きた
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