かなく燃やし、独りして歌ったずおん。
――橋こ流えて行かえない。
マロサマは、また首こかしげて分別したのだずおん。なかなか分別は出て来ねずおん。そのうちにし、声たてて泣いたのだずおん。泣き泣きしゃべったとせえ。
――あみださまや。
わらわ、みんなみんな、笑ったずおん。
――ぼんずの念仏、雨、降った。
――もくらもっけの泣けべっちょ。
――西くもて、雨ふった。雨ふって、雪とけた。
そのときにし、よろずよやのタキは、きずきずと叫びあげたとせえ。
――マロサマの愛《め》ごこや。わのこころこ知らずて、お念仏。あわれ、ばかくさいじゃよ。
そうしてし、雪だまにぎて、マロサマさぶつけたずおん。雪だま、マロサマの右りの肩さ当り、ぱららて白く砕けたずおん。マロサマ、どってんして、泣くのばやめてし、雪こ溶けかけた黄はだの色のふろ野ば、どんどん逃げていったとせえ。
そろそろと晩げになったずおん。野はら、暗くなり、寒くなったずおん。わらわ、めいめいの家さかえり、めいめい婆《ば》さまのこたつこさもぐり込んだずおん。いつもの晩げのごと、おなじ昔噺《むがしこ》をし、聞くのだずおん。
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