春の盗賊
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)就《つ》いての

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一般|市井人《しせいじん》の家を営み、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から7字下げ]
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[#天から7字下げ]――わが獄中吟。



 あまり期待してお読みになると、私は困るのである。これは、そんなに面白い物語で無いかも知れない。どろぼうに就《つ》いての物語には、違いないのだけれど、名の有る大どろぼうの生涯を書き記すわけでは無い。私一個の貧しい経験談に過ぎぬのである。まさか、私がどろぼうを働いたというのではない。私は五年まえに病気をして、そのとき、ほうぼうの友人たちに怪しい手紙を出してお金を借り、それが積り積って、二百円以上になって、私は五年後のいまでも、それをお返しすることができず、借りたお金を返さないのは、それは見事な詐欺《さぎ》なのであるが、友人たちは、私を訴えることを、ようせぬばかりか、路で逢っても、よう、からだは丈夫か、とかえって私をいたわるのである。返さなければならぬ! いつも、忘れた
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