た指輪なんかがはいっていて、その不手際の、でこぼこした針金の屈曲には、女の子のうんうん唸《うな》って、顔を赤くして針金ねじ曲げた子供の柔かいちからが、そのまま、じかに残っていて、彎曲《わんきょく》のくぼみくぼみに、その子供の小さい努力が、ほの温くたまっていて、君は、たまらなくなって顔を覆ったろう。平気だったら、君は、鬼だ。また、男の子の財布には、メンコが一そろいはいっている。メンコには、それぞれお角力《すもう》さんの絵が画かれていて、東の横綱から前頭《まえがしら》まで、また西の横綱から前頭まで、東西五枚ずつ、合計十枚、ある筈なんだが、一枚たりない。東の横綱がないんだ。どういうわけか、そこまでは僕も知らない。メンコ屋で、品切れになっていたのかも知れない。持主の男の子は、かねがね、どんなにそれを淋しがっていたことだろう。どんなに、ひそかに気がひけていたろう。どんなに東の横綱が、ほしかったろう。所蔵の童話の本、全部を投げ打っても、その東の横綱と交換したいと思っていたにちがいない。東の横綱は、どこのメンコ屋にも無かった。友だちみんなに聞いてまわっても無かった。そのとき、君が、盗んじゃった。君は
前へ
次へ
全62ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング