せて、それから、そのお金は実は菊代さんがばくちでもうけたお金だという事を知らせて、いい気持でごちそうになっている母やわたくしがみっともなく狼狽《ろうばい》するさまを、かげでごらんになってあざ笑うつもりだったのでしょうけれど、でも、それにしても、策略があくどすぎます。あんまり、意地がわるすぎます。
(奥田) すると? あの金は?
(節子) ご存じじゃなかったのですか? 菊代さんのお金です。
(奥田) そうですか。いや、いかにも、あいつのやりそうないたずらだ。(笑う)
(節子) まだあります。野中にたきつけて、わたくしとあなたと、……。
(奥田)(まじめになり)しかし、おくさん。妹はばかな奴《やつ》ですが、そんな、くだらない事は言わない筈《はず》です。
(節子) でも、野中はさっき、わたくしを疑っているような、いやな事を言いました。
(奥田) それじゃあ、それは野中先生ひとりの空想です。野中先生は少しロマンチストですからね。いつか僕と議論した事がありました。野中先生のおっしゃるには、この世の中にいかにおびただしく裏切りが行われているか、おそらくは想像を絶するものだ、いかに近い肉親でも友人で
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