ひとり警察の前まで行って、それとなく中の様子をうかがって見たんですが、ばかに静かで、べつに変った事も無いようなんです。へたに騒ぎ立てて恥をかいてもつまりませんし、さっきの生徒たちを捜して、もういちどよく聞きただそうと思って、引返して来たところなんです。ことによったら、あいつ、……。
(節子) え?
(奥田) いや、べつに、……。
(節子) 奥田先生! わたくしどもは、菊代さんに何か悪い事でもしたのでしょうか。
(奥田)(あらたまって)なぜですか?
(節子) ばくちで警察に挙げられたなんて、嘘《うそ》です。わたくしには、もうみな、わかりました。(急に泣き出す)あんまりですわ。あんまりですわ。なぜ、わたくしどもはこんなに、菊代さんにからかわれなければならないのです。
(奥田) すみません。実は、僕も、警察の前まで行って、すぐこれあ菊代に一ぱい食わされたなと思ったのですが、しかし、もしそうだとしても、なんのために、子供たちまで使って、こんな、ばからしい狂言を、……。
(節子) それは、わかっています。菊代さんは、野中をけしかけて酒や肴《さかな》を買わせて、そうしてわたくしや母にまでごちそうさ
前へ 次へ
全55ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング