それから、あなたも、手を洗って下さい。」
と言う。
こりゃもうてっきり、と私は即断を下した。
「井戸は、玄関のわきでしたね。一緒に洗いましょう。」
と私を誘う。
私はいまいましい気持で、彼のうしろについて外へ出て井戸端に行き、かわるがわる無言でポンプを押して手を洗い合った。
「うがいして下さい。」
彼にならって、私も意味のわからぬうがいをする。
「握手!」
私はその命令にも従った。
「接吻《せっぷん》!」
「かんべんしてくれ。」
私はその命令にだけは従わなかった。
彼は薄く笑って、
「いまに事情がわかれば、あなたのほうから私に接吻を求めるようになるでしょう。」
と言った。
部屋に帰って、卓をへだてて再び対坐し、
「おどろいてはいけませんよ。いいですか? 実は、あなたと私とは、兄弟なのです。同じ母から生れた子です。そう言われてみると、あなたも、何か思い当るところがあるでしょう。もちろん私は、あなたより年上ですから、兄で、そうしてあなたは弟です。それから、これは、当分は秘密にして置いたほうがいいかも知れませんが、私たちには、もうひとりの兄があるのです。その兄は、」いかに
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