書房の編輯部《へんしゅうぶ》に勤めて居られる。A君は、私と中学校同級であった。画家である。或る宴会で、これも十年ぶりくらいで、ひょいと顔を合せ、大いに私は興奮した。私が中学校の三年のとき、或る悪質の教師が、生徒を罰して得意顔の瞬間、私は、その教師に軽蔑をこめた大拍手を送った。たまったものでない。こんどは私が、さんざんに殴られた。このとき、私のために立ってくれたのが、A君である。A君は、ただちに同志を糾合《きゅうごう》して、ストライキを計った。全学級の大騒ぎになった。私は、恐怖のためにわなわな震えていた。ストライキになりかけたとき、その教師が、私たちの教室にこっそりやって来て、どもりながら陳謝した。ストライキは、とりやめとなった。A君とは、そんな共通の、なつかしい思い出がある。
 Y君に、A君と、二人そろって私の家に遊びに来てくれることだけでも、私にとって、大きな感激なのに、いままた、W君と二十年ぶりに相逢うことのできるのであるから、私は、三日もまえから、そわそわして、「待つ」ということは、なかなか、つらい心理であると、いまさらながら痛感したのである。
 よそから、もらったお酒が二升あっ
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