まり無かったのではあるまいか。そのとき、たったいちどだけ、私はW君を見掛けて、それが二十年後のいまになっても、まるで、ちゃんと天然色写真にとって置いたみたいに、映像がぼやけずに胸に残って在るのである。私は、その顔をハガキに画いてみた。胸の映像のとおりに画くことができたので、うれしかった。たしかに、ソバカスが在ったのである。そのソバカスも、点々と散らして画いた。可愛い顔である。私は、そのハガキをW君に送った。もし、間違っていたら、ごめんなさい、と大いに非礼を謝して、それでも、やはりその画を、お目に掛けずには、居られなかった。そうして、「十一月二日の夜、六時ごろ、やはり青森県出身の旧友が二人、拙宅へ、来る筈ですから、どうか、その夜は、おいで下さい。お願いいたします。」と書き添えた。Y君と、A君と二人さそい合せて、その夜、私の汚い家に遊びに来てくれることになっていたのである。Y君とも、十年ぶりで逢うわけである。Y君は、立派な人である。私の中学校の先輩である。もとから、情の深い人であった。五、六年間、いなくなった。大試錬である。その間、独房にてずいぶん堂々の修行をなされたことと思う。いまは或る
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