》しているのです。
僕を恥ずかしい目に逢《あ》わせないで。
姉さん!」
そこまで読んで私は、その夕顔日誌を閉じ、木の箱にかえして、それから窓のほうに歩いて行き、窓を一ぱいにひらいて、白い雨に煙っているお庭を見下《みおろ》しながら、あの頃の事を考えた。
もう、あれから、六年になる。直治の、この麻薬中毒が、私の離婚の原因になった、いいえ、そう言ってはいけない、私の離婚は、直治の麻薬中毒がなくっても、べつな何かのきっかけで、いつかは行われているように、そのように、私の生れた時から、さだまっていた事みたいな気もする。直治は、薬屋への支払いに困って、しばしば私にお金をねだった。私は山木へ嫁《とつ》いだばかりで、お金などそんなに自由になるわけは無し、また、嫁ぎ先のお金を、里の弟へこっそり融通してやるなど、たいへん工合いの悪い事のようにも思われたので、里から私に附《つ》き添って来たばあやのお関《せき》さんと相談して、私の腕輪や、頸飾《くびかざ》りや、ドレスを売った。弟は私に、お金を下さい、という手紙を寄こして、そうして、いまは苦しくて恥ずかしくて、姉上と顔を合せる事も、また電話で話する事
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