人のほうがありがたい。さっぱりする。けれども人は、めったに、死ね! とは言わないものだ。ケチくさく、用心深い偽善者どもよ。
 正義? 所謂階級闘争の本質は、そんなところにありはせぬ。人道? 冗談じゃない。僕は知っているよ。自分たちの幸福のために、相手を倒す事だ。殺す事だ。死ね! という宣告でなかったら、何だ。ごまかしちゃいけねえ。
 しかし、僕たちの階級にも、ろくな奴がいない。白痴、幽霊、守銭奴《しゅせんど》、狂犬、ほら吹き、ゴザイマスル、雲の上から小便。
 死ね! という言葉を与えるのさえ、もったいない。

 戦争。日本の戦争は、ヤケクソだ。
 ヤケクソに巻き込まれて死ぬのは、いや。いっそ、ひとりで死にたいわい。

 人間は、嘘をつく時には、必ず、まじめな顔をしているものである。この頃の、指導者たちの、あの、まじめさ。ぷ!

 人から尊敬されようと思わぬ[#「思わぬ」に傍点]人たちと遊びたい。
 けれども、そんないい人たちは、僕と遊んでくれやしない。
 僕が早熟を装って見せたら、人々は僕を、早熟だと噂《うわさ》した。僕が、なまけものの振りをして見せたら、人々は僕を、なまけものだと噂し
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