お母さまは、まじめにそう言い、スウプをすまして、それからお海苔《のり》で包んだおむすびを手でつまんでおあがりになった。
 私は小さい時から、朝ごはんがおいしくなく、十時頃にならなければ、おなかがすかないので、その時も、スウプだけはどうやらすましたけれども、食べるのがたいぎで、おむすびをお皿に載せて、それにお箸《はし》を突込み、ぐしゃぐしゃにこわして、それから、その一かけらをお箸でつまみ上げ、お母さまがスウプを召し上る時のスプウンみたいに、お箸して、まるで小鳥に餌《えさ》をやるような工合《ぐあ》いにお口に押し込み、のろのろといただいているうちに、お母さまはもうお食事を全部すましてしまって、そっとお立ちになり、朝日の当っている壁にお背中をもたせかけ、しばらく黙って私のお食事の仕方を見ていらして、
「かず子は、まだ、駄目なのね。朝御飯が一番おいしくなるようにならなければ」
 とおっしゃった。
「お母さまは? おいしいの?」
「そりゃもう。私は病人じゃないもの」
「かず子だって、病人じゃないわ」
「だめ、だめ」
 お母さまは、淋《さび》しそうに笑って首を振った。
 私は五年前に、肺病とい
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