雨は私のレインコートをとおして、上衣《うわぎ》にしみて来て、やがて肌着《はだぎ》までぬらしたほどであった。
その日は一日、モッコかつぎをして、帰りの電車の中で、涙が出て来て仕様が無かったが、その次の時には、ヨイトマケの綱引だった。そうして、私にはその仕事が一ばん面白かった。
二度、三度、山へ行くうちに、国民学校の男生徒たちが私の姿を、いやにじろじろ見るようになった。或る日、私がモッコかつぎをしていると、男生徒が二三人、私とすれちがって、それから、そのうちの一人が、
「あいつが、スパイか」
と小声で言ったのを聞き、私はびっくりしてしまった。
「なぜ、あんな事を言うのかしら」
と私は、私と並んでモッコをかついで歩いている若い娘さんにたずねた。
「外人みたいだから」
若い娘さんは、まじめに答えた。
「あなたも、あたしをスパイだと思っていらっしゃる?」
「いいえ」
こんどは少し笑って答えた。
「私、日本人ですわ」
と言って、その自分の言葉が、われながら馬鹿《ばか》らしいナンセンスのように思われて、ひとりでくすくす笑った。
或るお天気のいい日に、私は朝から男の人たちと一緒に丸太は
前へ
次へ
全193ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング