してお母さまに差し上げた。お母さまは半熟を三つと、それからおかゆをお茶碗《ちゃわん》に半分ほどいただいた。
あくる日、村の名医が、また白足袋をはいてお見えになり、私が昨日の強い注射の御礼を申し上げたら、効《き》くのは当然、というようなお顔で深くうなずき、ていねいにご診察なさって、そうして私のほうに向き直り、
「大奥さまは、もはや御病気ではございません。でございますから、これからは、何をおあがりになっても、何をなさってもよろしゅうございます」
と、やはり、へんな言いかたをなさるので、私は噴き出したいのを怺《こら》えるのに骨が折れた。
先生を玄関までお送りして、お座敷に引返して来て見ると、お母さまは、お床の上にお坐りになっていらして、
「本当に名医だわ。私は、もう、病気じゃない」
と、とても楽しそうなお顔をして、うっとりとひとりごとのようにおっしゃった。
「お母さま、障子をあけましょうか。雪が降っているのよ」
花びらのような大きい牡丹雪《ぼたんゆき》が、ふわりふわり降りはじめていたのだ。私は、障子をあけ、お母さまと並んで坐り、硝子戸《ガラスど》越しに伊豆の雪を眺めた。
「もう病気
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