が無いんです。さようなら。
 結局、僕の死は、自然死です。人は、思想だけでは、死ねるものでは無いんですから。
 それから、一つ、とてもてれくさいお願いがあります。ママのかたみの麻の着物。あれを姉さんが、直治が来年の夏に着るようにと縫い直して下さったでしょう。あの着物を、僕の棺にいれて下さい。僕、着たかったんです。
 夜が明けて来ました。永いこと苦労をおかけしました。
 さようなら。
 ゆうべのお酒の酔いは、すっかり醒めています。僕は、素面《しらふ》で死ぬんです。
 もういちど、さようなら。
 姉さん。
 僕は、貴族です。

     八

 ゆめ。
 皆が、私から離れて行く。
 直治の死のあと始末をして、それから一箇月間、私は冬の山荘にひとりで住んでいた。
 そうして私は、あのひとに、おそらくはこれが最後の手紙を、水のような気持で、書いて差し上げた。

 どうやら、あなたも、私をお捨てになったようでございます。いいえ、だんだんお忘れになるらしゅうございます。
 けれども、私は、幸福なんですの。私の望みどおりに、赤ちゃんが出来たようでございますの。私は、いま、いっさいを失ったような気がし
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