んて、ひどくややこしい譬話《たとえばなし》もあるし、キリストも勘定はなかなかこまかいんだ」
 と別の紳士。
「それに、あいつあ酒飲みだったよ。妙にバイブルには酒の譬話が多いと思っていたら、果せるかなだ、視《み》よ、酒を好む人、と非難されたとバイブルに録《しる》されてある。酒を飲む人でなくて、酒を好む人というんだから、相当な飲み手だったに違いねえのさ。まず、一升飲みかね」
 ともうひとりの紳士。
「よせ、よせ。ああ、あ、汝《なんじ》らは道徳におびえて、イエスをダシに使わんとす。チエちゃん、飲もう。ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」
 と上原さん、一ばん若くて美しいお嬢さんと、カチンと強くコップを打ち合せて、ぐっと飲んで、お酒が口角からしたたり落ちて、顎が濡《ぬ》れて、それをやけくそみたいに乱暴に掌で拭《ぬぐ》って、それから大きいくしゃみを五つも六つも続けてなさった。
 私はそっと立って、お隣りの部屋へ行き、病身らしく蒼白《あおじろ》く痩《や》せたおかみさんに、お手洗いをたずね、また帰りにその部屋をとおると、さっきの一ばんきれいで若いチエちゃんとかいうお嬢さんが、私を待っていたような恰
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