笑《おか》しそうに片手をお口に当てられて、
「荻窪ですの。駅の前の、白石《しらいし》というおでんやさんへおいでになれば、たいてい、行く先がおわかりかと思います」
私は飛び立つ思いで、
「あ、そうですか」
「あら、おはきものが」
すすめられて私は、玄関の内へはいり、式台に坐《すわ》らせてもらい、奥さまから、軽便鼻緒とでもいうのかしら、鼻緒の切れた時に手軽に繕うことの出来る革の仕掛紐《しかけひも》をいただいて、下駄を直して、そのあいだに奥さまは、蝋燭《ろうそく》をともして玄関に持って来て下さったりしながら、
「あいにく、電球が二つとも切れてしまいまして、このごろの電球は馬鹿高い上に切れ易《やす》くていけませんわね、主人がいると買ってもらえるんですけど、ゆうべも、おとといの晩も帰ってまいりませんので、私どもは、これで三晩、無一文の早寝ですのよ」
などと、しんからのんきそうに笑っておっしゃる。奥さまのうしろには、十二、三歳の眼の大きな、めったに人になつかないような感じのほっそりした女のお子さんが立っている。
敵。私はそう思わないけれども、しかし、この奥さまとお子さんは、いつかは私を敵と
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