自信の無さ
太宰治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)下手《へた》な

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)前例の無い[#「前例の無い」に傍点]
−−

 本紙(朝日新聞)の文芸時評で、長与先生が、私の下手《へた》な作品を例に挙げて、現代新人の通性を指摘して居られました。他の新人諸君に対して、責任を感じましたので、一言申し開きを致します。古来一流の作家のものは作因が判然《はっきり》していて、その実感が強く、従ってそこに或る動かし難い自信を持っている。その反対に今の新人はその基本作因に自信がなく、ぐらついている、というお言葉は、まさに頂門《ちょうもん》の一針《いっしん》にて、的確なものと思いました。自信を、持ちたいと思います。
 けれども私たちは、自信を持つことが出来ません。どうしたのでしょう。私たちは、決して怠けてなど居りません。無頼《ぶらい》の生活もして居りません。ひそかに読書もしている筈であります。けれども、努力と共に、いよいよ自信がなくなります。
 私たちは、その原因をあれこれと指摘し、罪を社会に転嫁するような事も致しません。
次へ
全3ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング