私たちは、この世紀の姿を、この世紀のままで素直に肯定したいのであります。みんな卑屈であります。みんな日和見《ひよりみ》主義であります。みんな「臆病な苦労」をしています。けれども、私たちは、それを決定的な汚点だとは、ちっとも思いません。
 いまは、大過渡期だと思います。私たちは、当分、自信の無さから、のがれる事は出来ません。誰の顔を見ても、みんな卑屈です。私たちは、この「自信の無さ」を大事にしたいと思います。卑屈の克服からでは無しに、卑屈の素直な肯定の中から、前例の無い[#「前例の無い」に傍点]見事な花の咲くことを、私は祈念しています。



底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1989(平成元)年6月27日第1刷発行
   1998(平成10)年6月15日第4刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
   1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
初出:「東京朝日新聞」
   1940(昭和15)年6月2日
入力:増山一光
校正:土屋隆
2006年1月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(ht
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