校長三代
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)捧《ささ》げ銃《つつ》をして。
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私が弘前の高等學校にはひつてその入學式のとき、訓辭した校長は、たしか黒金といふ名前であつたと記憶してゐる。金椽の眼鏡を掛け、痩身で、ちよつと氣取つた人であつた。高田早苗に似てゐた。植木が好きで、學校のぐるりに樣々の植木を、優雅に配置し、ときどき、ひとり、兩手をうしろに組んで、その植木の間を、ゆつくり縫つて歩いてゐた。
間もなくゐなくなつて、そのかはりに來たのは、鈴木信太郎氏である。このひとの姓名は、はつきり覺えてゐる。このひとはちよつと失敗した。いまは、どうして居られるか。政治家肌のひとで、多少、政黨にも關係があつたやうである。就任早々、一週を五日として、六日目毎に休日を與へ、授業も毎日午前中だけにしたい、それゆゑに生徒が怠けるとは思はれない。自分は生徒を信じてゐる、といふやうな感想を述べ、大いに生徒たちを狂喜させたが、これは、實現されなかつた。結局、感想にすぎなかつた。けれども他のことを實行した。
一校を一國家と看做し、各クラスより二名づつの代議士を選擧し、
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