の鬱屈の心情を吐露したい。それまでは大事に、しまって置きたい。その一端を、いま随筆として発表しても、言葉が足らず、人に誤解されて、あげ足とられ、喧嘩《けんか》をふっかけられては、つまらない。私は、自重していたいのである。ここは何とかして、愚色を装い、
「本日は晴天なり、れいの散歩など試みしに、紅梅、早も咲きたり、天地有情、春あやまたず再来す」
 の調子で、とぼけ切らなければならぬ、とも思うのだが、私は甚《はなは》だ不器用で、うまく感情を蓋《おお》い隠すことが出来ないたちなのである。うれしい事が在ると、つい、にこにこしてしまう。つまらない失敗をすると、どうしても、浮かぬ顔つきになってしまう。とぼける事が、至難なのである。こう書いた。
「誰もそれを認めてくれなくても、自分ひとりでは、一流の道を歩こうと努めているわけである。だから毎日、要らない苦労を、たいへんしなければならぬわけである。自分でも、ばかばかしいと思うことがある。ひとりで赤面していることもある。
 ちっとも流行しないが、自分では、相当のもののつもりで出処進退、つつしみつつしみ言動している。大事のまえの小事には、戒心の要がある。つ
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