ゃん、お風呂へ行った。」その、まだ小学校に通っているらしい男の子は、のろい口調で答えるのである。「もうすぐ、帰って来るよ。」
「ああ、そうか。」私は瞬間、当惑した。「どうしましょう。」と小声で熊本君に相談した。
「待っていましょう。」熊本君は、泰然《たいぜん》としていた。「ここは、女の子がいないから、気がとても楽です。」やはり、自分の鼻に、こだわっている。
「ビイルを飲めば、いいじゃないか。」佐伯は、突然、言い出した。「そこに、ずらりと並んである。」
見ると、奥の棚にビイルの瓶が、成程《なるほど》ずらりと並んである。私は、誘惑を感じた。ビイルでも一ぱい飲めば、今の、この何だかいらいらした不快な気持を鎮静させることが出来るかも知れぬと思った。
「おい、」と店番の男の子を呼び、「ビイルだったら、お母さんがいなくても出来るわけだね。栓抜《せんぬ》きと、コップを三つ持って来ればいいんだから。」
男の子は、不承不承に首肯《うなず》いた。
「僕は、飲みませんよ。」熊本君は、またしても、つんと気取った。「アルコオルは、罪悪です。僕は、アカデミックな態度を、とろうと思います。」
「誰も君に、」佐伯
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