乞食学生
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)筈《はず》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)身長|骨骼《こっかく》も尋常である。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
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[#ここから7字下げ]
大貧に、大正義、望むべからず
      ――フランソワ・ヴィヨン
[#ここで字下げ終わり]



       第一回

 一つの作品を、ひどく恥ずかしく思いながらも、この世の中に生きてゆく義務として、雑誌社に送ってしまった後の、作家の苦悶に就《つ》いては、聡明な諸君にも、あまり、おわかりになっていない筈《はず》である。その原稿在中の重い封筒を、うむと決意して、投函する。ポストの底に、ことり、と幽《かす》かな音がする。それっきりである。まずい作品であったのだ。表面は、どうにか気取って正直の身振りを示しながらも、その底には卑屈な妥協の汚い虫が、うじゃうじゃ住んでいるのが自分にもよく判って、
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