かんき》りも、その他三種類の小道具が附いているんですよ。デリケエトなんですよ。ごしょうだから返して下さい。」と、れいの泣き声で、わめき散らしたのである。
悪漢佐伯も、この必死の抗議には参ったらしく、急に力が抜けた様子で、だらりと両腕を下げ、蒼白《そうはく》の顔に苦笑を浮かべ、
「返すよ。返すよ。返してやるよ。」と自嘲の口調で言って、熊本君の顔を見ずにナイフを手渡し、どたりと椅子に腰を下した。
「さあ、何とでも言うがいい。」と佐伯は、ほんものの悪党みたいな、下品な口をきいたので、私は興醒《きょうざ》めして、しきりに悲しかった。佐伯の隣りの椅子に、腰をおろして、
「五一郎君、」とはじめて佐伯の名を、溜息と共に言い、「そんなふてくされたものの言いかたをするものじゃないよ。君らしくも無いじゃないか。」
「猫撫で声は、よしてくれ。げろが出そうだ。はっきり負けた奴に、そんなに優しくお説教をはじめるのは、いい気持のものらしいね。」佐伯は、顔を不機嫌にしかめて、強く、吐き出すように言い、両腕をぐったりテエブルの上に投げ出した。手が附けられぬくらいに、ふてくされてしまっている。私は、いよいよ味気ない思
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