女史に、耳環《みみわ》を贈る約束。
○人の子には、ひとつの顔しか無かった。
○性慾を憎む。
○明日。
[#ここで字下げ終わり]
読んでいって、てるには、ひどく不思議な気がした。庭を掃き掃き、幾度も首をふって考えた。この、謂《い》わば悪魔のお経《きょう》が、てるの嫁入りまえの大事なからだに悪い宿命の影を投じた。
C
私をお笑い下さいませ、毎夜、毎夜、私は花とばかり語り合って居ります。あなたさまをも含めてみんなを、いやになりました。花は、万朶《ばんだ》のさくらの花でも、一輪、一輪、おそろしいくらいの個性を持って居ります。私は、いま、ベッドに腹這いになって、鉛筆をなめなめ、考え考えして、一字、一字、書きすすめ、もう、死ぬるばかり苦しくなって、そうして、枕元の水仙《すいせん》の花を見つめて居ります。電気スタンドの下で水仙の花が三輪、ひとつは右を向き、ひとつは左を向き、もうひとつは、うつむいたまま、それぞれ私に語ります。右を向いている真面目の花は、わかっているわよ。けれども、生きなければなりませぬ。左を向いている活溌の花は、どうせ、世の中って、こんなものさ。うつむいている
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