、わるい男に抱かれたことございます、と或る朝、十郎様に泣き泣きお願いしたとかいう、その愚かしい愛人のために、およろこび申上げます。おゆるし下さい。私は、それを、くだらないと存じました。そうして、そのような愚直の出来事を、有頂天の喜悦を以て、これは大地の愛情だ、とおっしゃる十郎様のお姿をさえ、あさましく滑稽なものと存じ上げます。私も、もう二十五歳になりました。一年、一年、みんな、ぞろぞろ私から離れて行きます。そうしてみんな、あの平民的とやらの群衆の中にまぎれこんで行きます。私は、せめて、此《こ》のおばあちゃんひとりを、花火のように、はかなく華麗に育ててゆきます。さようなら、おわかれの、いいえ、握手よ。私、自惚《うぬぼ》れてもいいこと? あなたは、きっと、私のところに帰ってまいります。
お達者にお暮しなさいまし。[#地から3字上げ]KR。
D
雨降る日、美濃は書斎で書きものをしていた。仔細《しさい》らしく顔をしかめて、書きものをしていた。
あそび仲間の詩人が、ひょっくりドアから首を出した。
「おい、何か悪い事をしに行こうか。も少し後悔してみたい。」
振り向きもせ
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