ゐるポスタアが、東側の壁にいちまい貼られてゐた。ポスタアの裾にはカブトビイルと横に黒く印刷されてある。それと向ひ合つた西側の壁には一坪ばかりの鏡がかけられてゐた。鏡は金粉を塗つた額縁に收められてゐるのである。北側の入口には赤と黒との縞のよごれたモスリンのカアテンがかけられ、そのうへの壁に、沼のほとりの草原に裸で寢ころんで大笑ひをしてゐる西洋の女の冩眞がピンでとめつけられてゐた。南側の壁には、紙の風船玉がひとつ、くつついてゐた。それがすぐ私の頭のうへにあるのである。腹の立つほど、調和がなかつた。三つのテエブルと十脚の椅子。中央にストオヴ。土間は板張りであつた。私はこのカフヱでは、たうてい落ちつけないことを知つてゐた。電氣が暗いので、まだしも幸ひである。
 その夜、私は異樣な歡待を受けた。私がその中年の女給に酌をされて熱い日本酒の最初の徳利をからにしたころ、さきに私に煙草をいつぽんめぐんで呉れたわかい女給が、突然、私の鼻先へ右のてのひらを差し出したのである。私はおどろかずに、ゆつくり顏をあげて、その女給の小さい瞳の奧をのぞいた。運命をうらなつて呉れ、と言ふのである。私はとつさのうちに了解し
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