ショールを買えないと云い訳に行き、ちょいの間を行き、婆さんの借金を三円払ってやり、正月に連れだして、やる約束を迫《せが》まれ……所で、今月は師走です。洋服屋がきて虎の子の十円を持って行きました。未だ一円残っていますがこれで散髪屋に行き、――後五十銭残りますが、これもいっそ費《つか》って、宵越《よいごし》のぜにア持たねエ、クリスマスを迎えようかと愚考しています。ぼくはここ迄昨夜二時帰宅後、五時まで書きました。今、同じ部屋に居る会社の給仕君と床屋に行って来ました。加藤|咄堂《とつどう》氏のラジオを聞いてきました。帰りに菓子四十銭、ピジョン一箱で、完全に文無しになりました。今シェストフ『自明の超克』『虚無の創造』を読んでいます。彼は云います、『一般に伝記というものは何でも語っているが、只《ただ》我々にとって重要なことは除外しているものだ。』ぼくは前の饒舌《じょうぜつ》を読み返して、イヤになる。差し上げまいかとも思ったのですが、一遍書いたものは、もう僕と異《ちが》ったものですから、虚飾にみちた自家広告も愛嬌《あいきょう》だと思い、続けて自己嫌悪を連ねようと考えたのですが、シェストフで、誤魔化《
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