言わんとすれば君ぞありぬる。ああ、よき友よ。家内にせんには、ちと、ま心たらわず、愛人とせんには縹緻《きりょう》わるく、妻妾《さいしょう》となさんとすれば、もの腰粗雑にして鴉声《あせい》なり。ああ、不足なり。不足なり。月よ。汝、天地の美人よ。月やはものを思わする。吉田潔。」

 月日。
「太宰治さん。再々悪筆をお目にかける失礼、お許し下さいまし。一つには私たちの同人雑誌『春服』が、目茶苦茶になりかかった、わびしさから、二つには、ぼく自身のステールネスから、最後に、あなたがぼく如きものに好意をお持ち下され居る由、昨晩の松村と云う『春服』同人の手紙が伝えてくれたので、加うるに性来の図々《ずうずう》しさを以《もっ》て、御迷惑を省みず、狎書《こうしょ》を差し上げる次第です。友人の松村と言う男が、塩田カジョー、関タッチイ、大庄司清喜、この三人そろって船橋のお宅へお邪魔した際の拙作に関するあなたの御意見、あとでその三人から又聞きしたのを、そのまま私へ知らせてよこしました。亦《また》、『新ロマン派』十二月号にも拙作に関する感想をお洩《もら》しになったこと、『新潮』一月号掲載の貴作中、一少女に『春服』を
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