そむ》いて申し訳ないが、とても急には出来ない。実は昨年、県会議員選挙に立候補してお蔭で借金へ毎月|可成《かなり》とられるので閉口。選挙のとき小泉邦録君から五十円送って貰った。これだけでも早くお返ししたいと思い乍《なが》ら未《いま》だにお返し出来ずにいる始末。五十円位の金が出来ないのは何んとも羞《はずか》しいがさりとて、その辺を借金に廻るのは小生には、ちょっと出来ない。貴兄が小生の友情を信じて寄せた申越しに対し重ね重ねすまない。しかし出来ないことをねちねちしているのも嫌だから早速《さっそく》この手紙を書いた次第。悪く思わないでくれ。小生昨今、文学にしばらく遠ざかっているので、貴兄の活躍ぶりも詳しくは接していないが、貴兄の力には期待して居りますので必ずや相当以上の活動をしていることと思って居ります。返す返す済まないが、右の事情を御賢察のうえ御|寛恕《かんじょ》下さい。しかし貴兄から、こう頼まれたが、工面出来ないかと友達連に相談をかけても良いものならばまた可能性の生れて来る余地あるやも知れぬが、これは貴兄に対する礼儀でないと思うので……右とり急ぎ。辻田吉太郎。太宰兄。」
「手紙など書き、もの
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