つね日頃、どんなに君につくして居るか。どれだけこらえてゆずってやって居るか。どれだけ苦しいお金を使って居るか。きょうの君には、それら実相を知らせてあげたい。知ったとたんに、君は、裏の線路に飛び込むだろう。さなくば僕の泥足に涙ながして接吻《せっぷん》する。君にして、なおも一片の誠実を具有していたなら! 吉田潔。」
中旬
月日。
「拝呈。過刻は失礼。『道化の華《はな》』早速一読|甚《はなは》だおもしろく存じ候《そうろう》。無論及第点をつけ申し候。『なにひとつ真実を言わぬ。けれども、しばらく聞いているうちには思わぬ拾いものをすることがある。彼等の気取った言葉のなかに、ときどきびっくりするほど素直なひびきの感ぜられることがある。』という篇中のキイノートをなす一節がそのままうつして以《もっ》てこの一篇の評語とすることが出来ると思います。ほのかにもあわれなる真実の蛍光を発するを喜びます。恐らく真実というものは、こういう風にしか語れないものでしょうからね。病床の作者の自愛を祈るあまり慵斎《ようさい》主人、特に一書を呈す。何とぞおとりつぎ下さい。十日深夜、否、十一日朝、午前二時頃なるべ
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