。けれども、それは僕が次第にほんとの姿を現わし始めたことに過ぎないのだ。あの夜は、この温情家たる僕に、ひとつの明確な酷点を教示した。君のゆるせなかったもの、それは僕の酷点のひとつに相違ない。『われ、太陽の如く生きん。』僕の足もとに膝《ひざ》まずいて、君が許せないと感じたものを白状して御覧。君は、そういう場合、まるで非芸術のように頑固《がんこ》で、理由なしに、ただ、左を右と言ったものだが、温良に正直にすべてを語って御覧。誰も聞いていないのだよ。一生に最初の一度。嘘でも、また、ひかれ者の小唄でもないもの。まともなことを正直に僕に訴えて見給え。君は、なにか錯覚に墜《お》ちている。僕を、太陽のように利用し給え。この手紙を正当に最後のものにするかも知れぬ。僕は頑固者は嫌いである。それは黙殺にしか値しない。それは田舎者《いなかもの》だ。『君は何を許し難かったのか。』恥かしがらずに僕に話して見給え。はじらいを。君は、僕に惚《ほ》れているのだ。どうかね。ゆるすなんて、美しい寡婦《かふ》のようなことを言いなさんな。僕は、君が僕に献身的に奉仕しなければもう船橋の大本教に行かぬつもりだ。僕たち、二三の友人、
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