は、やっぱり私の肉親に敗れたのだね。どうも、そうらしい。」
かず枝は、雑誌から眼を離さず、口早に答えた。
「そうよ、あたしは、どうせ気にいられないお嫁よ。」
「いや、そうばかりは言えないぞ。たしかにおまえにも、努力の足りないところがあった。」
「もういいわよ。たくさんよ。」雑誌をほうりだして、「理くつばかり言ってるのね。だから、きらわれるのよ。」
「ああ、そうか。おまえは、おれを、きらいだったのだね。しつれいしたよ。」嘉七は、酔漢みたいな口調で言った。
なぜ、おれは嫉妬《しっと》しないのだろう。やはり、おれは、自惚《うぬぼ》れやなのであろうか。おれをきらう筈がない。それを信じているのだろうか。怒りさえない。れいのそのひとが、あまり弱すぎるせいであろうか。おれのこんな、ものの感じかたをこそ、倨傲《きょごう》というのではなかろうか。そんなら、おれの考えかたは、みなだめだ。おれの、これまでの生きかたは、みなだめだ。むりもないことだ、なぞと理解せず、なぜ単純に憎むことができないのか。そんな嫉妬こそ、つつましく、美しいじゃないか。重ねて四つ、という憤怒《ふんぬ》こそ、高く素直なものではないか
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