姥捨
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)仕末《しまつ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)四肢|萎《な》えて、
−−
そのとき、
「いいの。あたしは、きちんと仕末《しまつ》いたします。はじめから覚悟していたことなのです。ほんとうに、もう。」変った声で呟《つぶや》いたので、
「それはいけない。おまえの覚悟というのは私にわかっている。ひとりで死んでゆくつもりか、でなければ、身ひとつでやけくそに落ちてゆくか、そんなところだろうと思う。おまえには、ちゃんとした親もあれば、弟もある。私は、おまえがそんな気でいるのを、知っていながら、はいそうですかとすまして見ているわけにゆかない。」などと、ふんべつありげなことを言っていながら、嘉七も、ふっと死にたくなった。
「死のうか。一緒に死のう。神さまだってゆるして呉れる。」
ふたり、厳粛に身支度をはじめた。
あやまった人を愛撫した妻と、妻をそのような行為にまで追いやるほど、それほど日常の生活を荒廃させてしまった夫と、お互い身の結末を死ぬことに依《よ》ってつけようと思った。早春の一日で
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